はじめての、おてつだい


 まず今私がしなきゃいけないこと。
 現状把握。

 場所はお姉ちゃんの喫茶店。
 目の前には、紅薔薇のつぼみ。
 ポケットには、ついさっき預かった臨時収入。

 そして、
「いってらっしゃい」の
 お姉ちゃんの声。

 これから、私は未知の体験をすることになる。
 まさか、可南子さまのお手伝いをすることになるだなんて。

 --- はじめての、おてつだい ---

「か、可南子さま、最初にどこから行かれますか?」

 ああ、もう自分の馬鹿。
 声がうわずっちゃっているし。
 これじゃ、また誤解されちゃうよぅ。

「そうね、まずはこのメモの物を購入していかなきゃならないんだけど・・・」

 よかった、今日はまだ怒られないみたい。
 それに、なんだか機嫌がよろしそうだ。
 うん、私だけが知っている可南子さまがそこにいる。
 もしかしたら、何かいいことがあるのかもしれない。
 いや、すでに、二人で歩いていること自体、十分いいことなんだけど。

「・・・お姉さま・・・いったいなぜ?」

 あっけにとられた顔をして、歩みを止める可南子さま。
 後ろを歩いていた私は、当然のごとく、ぶつかってしまう。

「ご、ゴメンナサイ、うっかりしていました。
 お怪我はありませんか?」
「私はなれているから。貴女こそ大丈夫??」
「は、はぁ、大丈夫です。
 ところで、なにかあったんですか?」
 
 何事にも落ち着いて対処される、クールビューティで通っている可南子様が動揺するだなんて、いったいなにがあったんだろう。

「買い物リストを確認していたんだけど、
 あなた、念のため見ていただけるかしら?」
 
 いったいなんだろう?
 早速メモを見せてもらう。

「え?これ本当に買い物リストなんですか?」
「間違いないわ、昨日お姉さまから直接いただいたものだから。」

 可南子さまのお姉さまといえば、あの、紅薔薇さま。
 あのお方が指示を間違うなんてことはない、はず。
 でも、ここにある文字は、

「UFOキャッチャーの景品9体、できるだけ可愛いもの」

 それ以外は文具とか、専用画用紙など、事務用品で、ある意味予想通りのものだった。
 でも、これは、さすがに、本当に必要なものなんだろうか?

「お姉さまの指示に従うのが妹の務め、
 貴女にも協力してもらうから。」
「は、ハイ、ヨロコンデ。」

これ、本当に山百合会の仕事、だよ、ね?

 --- ゲームセンター ---

 UFOキャッチャー以外の物品はすぐに集めることができた。
 そりゃそうだ。
 適切に商品を探して買ってくるだけでいいんだし。

 でも、さすがに、この景品だけは、手ごわい。
 手に入れるには、多分に運と経験が必要不可欠。
 それを9体もだなんて・・・

「とりあえず、やってみましょうか。」

 明らかにやりなれていない手つきでUFOキャッチャーに挑む可南子さま。
 ああ、そんなところではつかめません。
 違います、タイミングが早いです。
 ドキドキハラハラしながら横で見ていること数十分。

 可南子さまの結果は0個。

「貴女、やったことあるならお願いできるかしら?」

 さすがにUFOキャッチャーの才能がないと思い出した様子。

「はい、不肖、都、がんばらせていただきます。」

 せっかくの可南子さまからのお願い。
 できうる限り答えないと。

 でも・・・

 普通の高校生ならいざ知らず、
 普段やりなれていないゲーム機では、歯が立たない。

 何とか取れたのは2個。

「ごめんなさい、可南子さま。
 こういう時くらいお役に立ちたかったのですが・・・」

 さすがに面と向かって話せない。

「いいのよ、貴女だって、ゲームセンターなんか普段遊びになんかきていないんでしょ?
 家のお手伝いで毎日忙しそうだし。」

 優しい顔で私を慰めてくれる。
 でも、もうわかっちゃったんだ、私が山百合会のお手伝いができない理由。
 そう、お姉ちゃんを少しでも助けたいから。
 両親がいなくなった時点で、私はリリアンになんか通える状態じゃなくなった。
 それなのに、今は、お姉ちゃんとお義兄さんの善意に甘えている。
 友達だってできた。
 これ以上の私のわがままなんて、お姉ちゃんが許したとしても、マリア様が許さないに違いないから。

 だから、今、この時間は夢だと思おう。
 もう二度とないだろうから。
 決して忘れないように。

 いま私のすることは、
 精一杯の笑顔で、顔をを上げて、

「がんばりましょう、可南子さま。
 きっとこのまま続けたら何とかなります。」

 言い切った。

「でも、予算がね・・・。
 なにかほかの手段も考えたほうがいいのかもしれない。」

そのとき、ゲーセンのお兄さんが声をかけてきた。

「そこのお二人さん、景品がほしいのかい?
 ちょっと協力してくれたら、何とかしてあげられるかもしれないよ?」

 普段なら怪しい勧誘は断るけど、
 いまの状況ではわらにもすがりたい気分。
 とりあえず話を聞くことになった。
 そして、知らされた協力内容とは

「新しいプリクラの微調整に付き合って」

 とのことだった。

 昔のはともかくいまのはいろいろ複雑な機構がついているらしく
 現地設定が大変らしい。

「どうなされますか?」

 お使いを直接命じられているのは、可南子様。
 決定権は私にはない。

「少なくとも、協力することで、確実に景品がいただけるのだから
 貴女さえよければ、私はかまわないわ」
「はい、けっこうです、是非協力させていただきます」

 思わず、全身いっぱいで返事をしてしまった。
 だって、だって、もしかしたら、可南子さまのプリクラ写真が見れるかもしれないのだから。
 間違いなく、ゲームセンターなどで遊びそうにもない、あの可南子さまのプリクラ。
 ハルちゃんや、歌乃ちゃん、絶対信じないだろうなあ。

 --- プリクラ ---

「じゃあ、二人で一緒にお願いしますね」

 ゲーセンの店員の声に私は固まってしまう。
 なんでも今回の機種はペア用のプリクラらしい。
 つまり、二人で映っていないとテストにならない、と。

「さあ、早くこっちに来て。
 なぜそんなところで呆れているの?」

 可南子さま。
 それは無理というものです。
 あまりにもそれは予想外だから。
 私と可南子さまの2ショット???

 そこから先、実は記憶があんまりない。
 ただ、可南子さまの優しい手に導かれるままに
 かなりの数のプリクラをとったらしい。

 調整中だから、いいプリント状態のものはなかったけど
 最後に出てきたものはまさに最高の品質のものだった。

 夢でないことの証拠に
 そのプリクラは私の財布のなかに大事にしまってある。

 そうして、私たちのおつかいは終わりに近づいた。

 --- 井の頭公園 ---

「今日は協力ありがとう。
 おかげさまで無事買出しは終了したわ。」

 ああ、そうだ、今日のことはすべて、お手伝い。
 必要な買い物がすめばもう、最後。

「どういたしまして。可南子さま。
 それでは、これで・・・?」

「ああ、貴女にお礼をしないといけないわね。
 なにか希望、あるかしら。」

 突然の可南子さまからの申し出。
 そんなこと言われたって、希望なんてありすぎで、
 でも、口に出すのもはばかられるものばかり。
 思わず周囲を見回す。

 目に入ったのは貸しボート。

「あ、ああの、一緒にボートに、乗っていただけませんか?」

 今思えば、どうしてこんな大胆なことが言えたのだろう。
 きっと魔が差したに違いない。
 いや、多分、今ここで経験したことはすべて「自分の夢」だから、
 きっと何を言ってもいいと思ってしまったのかも。

 私がわがままを言っていいのは夢の中だけだから。

 --- 二人だけのボート ---

「貴女も変わっているわね。
 私とボートだなんて。」

 少し自嘲気味に言われる可南子さま。
 確かに、クラスメイトが噂しているとおりのイメージだったら
 誰もが恐れ多くて、そのようなことを考えたりもしないだろう。

 でも、私は違う。
 みんなが知らない一面を見てしまっているから。
 だからどうしようもなく惹かれてしまっている。

「そんなことないです。
 私は可南子さまはとても素晴らしい方だと信じていますから。」

 今ここで言わないと、誤解されたままになりそうだから。
 自分にあるすべての気力を振り絞って、はっきりと答えた。

「そう?少なくとも私はそんなことは考えたこともないわ。
 ぶっきらぼうで、性格が曲がっている、そんなふうに自覚はしているけどね。」

 少しだけ悲しげな声が伝わる。
 でも、声だけで、表情からはその感情はわからない。
 そう、このひとは、感情表現が下手なだけなんだ。
 私はさらに言葉を続ける。

「可南子さまはあの紅薔薇さまに妹として選ばれたのではないですか。
 私の言葉が信じられなくてもかまいません。
 ただ、紅薔薇さまはきっと全てをご存知の上で、
 可南子さまのいいところを知っているのだと思います。
 それだけは信じてください。」

 たかが下級生の私の言葉なんかじゃ、可南子さまを勇気付けるなんて無理だ。
 でも、あの紅薔薇さまの言葉なら。
 伝説の紅薔薇さまなら、きっと可南子さまを救ってくださるはず。

「そうね、その通りね。
 でも、なぜ貴女にはそれがわかるのかしら?」

 それは、多分私が可南子さまのことが大好きだから。
 でもそんなこと、本人を前に言うことなんてできやしない。
 ボートの上からいまは逃げ出したい気分だ。

「あ、危ない、都!!!」

「あ、え?」

 うっかりバランスを崩してしまった私。
 なんとかボートの揺れは収まったけど。
 私の体を支えているのは、可南子さま。

 え?なに?いったいなにがあったの?
 覚えているのは
 暖く、やわらかい可南子さまの両手。
 そして。あの、声。

 --- 姉 ---

「みーやーこ、今日いったいなにがあったの。
 報告しなさい。」
 
 えーと、あれ?お姉ちゃん?
 ここは?
 自宅、だよね?
 いつ帰ってきたの?私?

 目が点になっている私をみて状況を理解してもらえたようだ。

「さっき可南子さんがあんたをおぶってきて
 ここまでやってきたんだよ」
「!!!」

 目が点になるどこじゃない。
 私、いったい何をやらかしたんだ?

「なんでもあんた、気を失ったそうじゃない。
 まったく、なにやっているんだか」

 呆れ顔のお姉ちゃん
 でも、ごもっともです。その指摘。
 可南子さまに迷惑をかけるだなんて一生の不覚。

 でも、気を失ったのは、多分、あのボートの上。
 だ、だめだ。
 自分の人生最大の恥をさらしたというのに、
 あのことを思い出すだけで・・・

「あーもういい。
 何も言わなくていいから。
 いまのあんたの顔みたら怒る気も失せちゃった。
 でも、明日、謝りに行くんだよ。絶対。」

 そういい残して奥の部屋に引っ込んでいった。
 いったいどんな顔をしているんだろう?私。

 ただ一つだけはっきりしていること。
 今日のことは夢じゃない。
 それはこのプリクラが何よりの証拠。

 ありがとう。お姉ちゃん。
 こんないい思い出作れたのは全てお姉ちゃんのおかげだよ。
 明日からお店の手伝い、頑張らないと。

 END


 またまたまた、へるつさまより、可愛いお話を頂いてしまいました。

 そうか、可南子さまとのデートは、紅薔薇さまの策略だったか。
 まあ、祐巳さまも、早く孫の顔が見たい……のでしょうね。
 黄薔薇・由乃さまには先を越され、白薔薇家も、そろそろ……ですしね。

 このお話の感想は、へるつさまのサイト“マリア様には見せられない”まで。
 次のお話も頂けるよう、ガンガンと感想ラッシュを、よろしくです。